自生の南天

今から5年ほど前の日曜日、久しぶりに休んで暖かい春の日差しを受けて縁側に腰を下ろして何気なく植木を眺めていると、垣根の近くに約15センチ程に伸びた南天の木が芽生えているのを見つけました。
誰が蒔いたのか、植えたのかは家族の者は誰も知りません。多分、冬に小鳥が垣根に出来た木の実(餌)を食べにきた時に落とした糞の中に南天の実が混ざっていたのが発生したものと思っています。白南天の木です。時は定かでないが一心寺門前浪曲寄席にお越し下さる古老の方から南天にまつわる楽しい話を聴いたのを思い出しました。
お正月の飾りものに南天を使う訳は「難を転じて福となる」と言われているそうで、縁起の良い樹木だそうです。真っ赤な実は不浄を清め純粋な気持ちで物事に打ち込める活力を与えて呉れているそうです。また寒風や雪の中で育つ強力な生命が漲っている、床の間や居間などに水仙などと一緒に生けたり、松・竹・梅などと共に鉢物として生けるのも良いと言われています。故に鬼門に当たる場所に植える方もおられるとか、身近なところでは快気祝いなどに使われる、赤飯の上に南天の葉を表向きに置いてあるのは、只の飾りだけでなく腐敗防止に役立っているそうです。また南天の箸でものを食べると歯にも良く不老長寿無病息災の祈りが込められているとか、子供の頃にはよく雪が降り積もりました。
雪だるまを作った時は目玉は豆炭をはめ込み、眉毛や鼻と口には木炭を使いました。兎を作った時は目玉は南天の真っ赤な実を入れて耳には南天の葉を差して遊んだのも昨日のように覚えております、私達の日常生活に密着した樹木です。まだ色々な活用方法を沢山教わりましたが、時は流れ日が経つにつれて私の記憶が立ち去ってゆきました。猛暑及び厳寒に耐え忍び体力を養い来春には一段と大きく成長して呉れるのを楽しみにしています。早く垣根と並ぶのを心待ちしています。

公益社団法人浪曲親友協会
中田 萬夫